大判例

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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)1589号 判決 1995年9月13日

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人らは各自、控訴人崔日出、同金敬士に対し、各九〇七万〇七五七円宛、同金壮守、同金敬祐、同金政右に対し各六〇五万〇五〇五円宛、同金良守に対し一五〇万五一二六円と、これらに対する昭和六〇年七月八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その四を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

五  この判決第二項は仮に執行することができる。

理由

第一  当事者間に争いのない事実、海煥の症状経過については、次のとおり、付加・訂正するほか、原判決二七枚目表八行目から四四枚目表二行目に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二八枚目裏五行目の「一二五」を「一二七」に、同六行目の「一三一号証、第一三三」を「一三〇」にそれぞれ改める。

2  同三一枚目裏八行目の「頻脈」の次に「(九六)」を、同「創」の次に「(左下腹部)」を、同一一行目の「頻脈」の次に「(一〇八)」を、それぞれ加える。

3  同三二枚目裏七行目の次に「同日一一時五〇分ころ、海煥は便意を催しポータブルトイレで排便しようとしたが、便器に茶色の泥状便が少量付着する程度で、残便感があった。」を加える。

4  同三四枚目表四行目の次に「同日午後六時、海煥は、便意があるが、排便・排ガスともになかった。」を加える。

5  同三五枚目表一〇行目「プラン」を「プラス」に改める。

6  同三八枚目表四行目の「汚れた」を削り、同一〇行目の「膿性」の次に「でkotigeruch(便臭)の」に改める。

7  同三九枚目表三行目の「低かった」の次に「乙六八」を加える。

8  同三九枚目裏一行目の「あった」の次に「(乙六七)」を、同八行目の「あった」の次に「(乙六六)」を、それぞれ加える。

9  同四〇枚目表五行目の「なった」の次に「(乙八一)」を加える。

同六行目の「動脈血」を「血液」に、「かった」を「かったが腸腔内排液の培養同定ではカンジタと腸球菌が、感受性試験でヒヨウケツレンサ球菌が、それぞれ検出された」に、それぞれ改める。

同七行目の「一二四」の次に「、一二五」を、同一〇行目の「あった」の次に「(乙八四)」を、それぞれ加える。

10  四〇枚目裏末行の次に「同日の横隔膜・ダグラスドレーンの消化器系排液から、グラム染色検査でグラム陰性桿菌(3+)とグラム陽性桿菌(3+)が、培養同定でプロテウス菌(2+)と腸球菌(3+)が、感受性試験でプロテウス属とヨウケツレンサ球菌が、それぞれ検出された(乙一二六、一二七)。」を加える。

11  同四一枚目表四行目の「あった」の次に「(乙一一二)」を加える。

第二  海煥の死因

一  第二手術の手術記録等の記載

1  被控訴人関谷の記載した手術記録

《証拠略》により、第二手術を執刀した被控訴人関谷が、第二手術直後に記載したと認められる乙一〇の「手術記録」には、術前の診断の欄に「吻合部の縫合不全」と、術式の欄に「人工肛門造設術(横行結腸)、腹腔洗浄、腹部ドレナージ」と、手術内容の記載欄に「前回の皮膚切開に沿って開くとす。腹腔内に達するに多量の膿性(便臭)液流出す。小腸は全体に膨張し、膿状苔が付着す。順次圧排しながら右横隔膜下、上腹部、ダグラス窩を検索しながら、液を十分に吸引す(茶褐色)。特に右横隔膜下に液の貯留が見られた。生食を注入しながら吸引す。そこで、吻合部を検査するに肉眼的な縫合不全がみられる。故に口側に人工肛門を設置し、ドレナージを十分に設置することとする。設置部位は横行結腸を上腹部に引きあげることにす」と、それぞれ記載され、S状結腸の縫合不全部分などやドレナージ設置部位などを図示されているが、膵臓ないし膵炎に関しては一切記載されていない。

2  また、看護婦が記載した甲七の「手術指示箋&チェックリスト」の術式の欄に「穿孔性腹膜炎、人工肛門造設術」と、挿入器具の種類等の欄に「開腹、腹膜内悪臭(+)便臭」と記載されている。

3  ところで、被控訴人関谷は、第二手術で開腹すると、物凄い量の茶褐色の液が出てきたため、非常に混乱して、膵液を腸液と、脂肪壊死を膿状苔と間違って記載した旨の供述をしている。

しかし、次の諸点を考慮すると、右供述をそのまま信じることは困難である。

(一) 被控訴人関谷は、昭和四九年五月医師になって以来十数年の経験があり、昭和五八年九月から昭和六〇年三月まで京都三菱病院の消化器外科長をしていたベテラン医師であり、介助医の被控訴人相馬も昭和三五年医師資格を取得した経験豊富な外科医であって、腹内に予想外の液があったぐらいで、判断力を失うとは考えられないこと。

(二) 被控訴人医師らは、自ら行った第一手術後に第二手術を必要と考える事情が生じたのであるし、六月二九日に控訴人壮守より縫合不全を発症しているのではないかと質問され、また、第二手術直前には縫合不全が生じて腹膜炎を発症したとの術前診断をし、六月三〇日には膵炎を疑っていたのであるから、これを具体的に確認できる第二手術に際しては、第一手術部位に縫合不全が存しているか、膵炎を示す状況が存するかについて、関心を持って観察をしたものと思われること。

(三) 被控訴人関谷は、手術直後に作成した手術記録に、「吻合部を検査」したこと、縫合不全は「肉眼的な」ものであることまで、具体的に記載していること。

(四) 開腹後に腹内に貯留していた液は、吻合部の検査までに吸引され、吻合部検査の妨げとはならないこと。

(五) 便液と膵液とでは色も臭も異なり、膵液が後腹膜を浸透してきたものであれば、粘性ではなくさらさらしていること。

(六) 被控訴人らは、本件訴訟提起後間もない時期には、原因程度はともかくとして、縫合不全が存したこと自体は認めていたこと(昭和六二年九月二一日受付答弁書と昭和六三年三月二四日受付準備書面)。

二  縫合不全と急性膵炎の症状に関する医学的知見

縫合不全と急性膵炎の症状に関する医学的知見については、次のとおり付加・訂正するほか、原判決四四枚目表四行目から同四八枚目裏一〇行目に説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決四四枚目表五行目の「四」の次に「、五」を、同「一二」の次に「並びに甲一七及び一九号証」をそれぞれ加え、同七行目の「(四)」を「(七)」に改める。

2  同四五枚目表七行目の後に、次のとおり加える。

(五) 一般に、消化管吻合術を施行した際には、術後二、三日間は発熱があり、その後、三七度前後に下降する。しかし、術直後の高熱が下降した後、再度四、五日後に発熱し、以後六ないし八日目に三八度ないし三九度の高熱となれば、まず、縫合不全を考慮に入れるべきである。その上、脈拍数が一分間に九〇ないし一〇〇であれば、縫合不全の可能性が強い。初発症状としては、発熱が約八〇パーセント、頻脈が約七〇パーセントにみられ、この二つが重要な症状である。

(一) 腹部レントゲン写真は、消化管穿孔の際必ず行うべき検査で、立位前後像で右横隔膜下に腹腔内遊離ガスをみることが多く、穿孔後時間が経つと腹腔内に滲出液が貯留するため拡張腸管係蹄ガス像の離間、腸腰筋陰影の不明瞭化、傍結腸溝の開大所見などの腹腔内液貯留像がみられる。

(七) 大腸穿孔では糞便性腹膜炎を呈し、エンドトキシンショック(大腸菌、変型菌、緑膿菌などの菌体内毒素を産出するグラム陰性桿菌の感染によって起こるショック状態)に陥りやすいため他部位の穿孔に比し予後が不良である。消化管穿孔後一二時間以内が再手術のいわゆるゴールデンタイムである。

3  同四五枚目表一〇行目の「一六」の次に「、三五号証の1・2」を加え、同裏一行目の「(八)」を「(九)」に改める。

4  同四八枚目裏一〇行目の後に、次のとおり加える。

(九) 厚生省特定疾患難治性膵疾患調査班の一九九〇年『急性膵炎臨床診断基準』は、次のとおりである。

(1) 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。

(2) 血中、尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある。

(3) 画像で膵に急性膵炎に伴う異常がある。

右三項目中二項目以上を満たし、他の膵疾患及び急性腹症を除外したものを急性膵炎とする。ただし、慢性膵炎の急性発症は急性膵炎に含める。また手術または剖検で確認したものはその旨付記する。

注:膵酵素は膵特異性の高いもの(P-アミラーゼなど)を測定することが望ましい。

また、同『急性膵炎重症度判定基準』は、別紙急性膵炎重症度判定基準のとおりである。

三  鑑定の結果(以下「山本鑑定意見」という)

山本鑑定については、次のとおり付加するほか、原判決四八枚目裏末行目から同五二枚目裏五行目の説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四九枚目表一行目の「鑑定の結果」の次に「及び証人山本正博の証言」を、同二行目の「講師、」の次に「昭和六一年四月から平成三年三月まで五年間、厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班の幹事」を、それぞれ加える。

2  同五〇枚目表八行目の次に「甲一三三号証の看護記録の六月二九日から七月一日にかけての便意と排便についての記載によると、海煥は、何回か便意を催しながら、排便がなかったり、あっても泥状水様便が少量であり、この便意が強くても余り便が出ない状態は、ダグラス窩膿瘍の存在を疑わせる所見であり、骨盤の一番低いところのダグラス窩に炎症や膿瘍があると、それが直腸膨大部を刺激して便意を催すもので、腹膜炎の兆候の一つである。」を加える。

四  医師(漢字略)桂植の所見

《証拠略》を総合すると、医師(漢字略)桂植(兵庫医科大学救命救急センター非常勤講師で、十数年間重症急性膵炎を治療・研究、開業医、以下「(漢字略)医師」という)は、海煥の死因について、次のような医学的所見を有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

1  海煥の縫合不全(消化管穿孔)は、第二手術の記録より明らかで、その発症は、六月二九日午前三時一五分頃(第一手術後六日目)である。

消化管穿孔の発症は劇的で、海煥の場合、看護記録によると、第一手術後の回復は順調で、排尿、排ガスもみられているが、右時間に突然の右下腹部痛があり(その後激痛に移行)、高熱、悪寒、腹鳴の減少がみられ、同日午後五時には腹鳴は下腹部では聴取されず、上腹部のみ鈍なり(ポコポコ音)と記載され、下腹部腸管の麻痺が始まり、下腹部腸管に穿孔が起こったことがわかる。

2  六月二九日撮影のレントゲン写真によると、両側横隔膜下に多量の腹腔内ガス、小腸麻痺像(小腸襞の出現)がみられ、1の症状の変化と総合的に判断して、下腹部の腸管麻痺を伴う術後縫合不全を強く疑うことができる。

手術後の腹腔内遊離ガスの量については、手術侵襲の程度や時間にもよるが、海煥の第一手術の時間は一時間一四分で、腹部手術としては比較的侵襲の軽い部類に属し、腹鳴が聴取され、排ガスも順調にみられていたから、腹腔内のガスは早期に吸収・消失していた筈で、右多量のガスは異常である。

3  七月一日撮影のレントゲン写真にみられる著明なガス像等は、常識的には縫合不全の発症した六月二九日から二日間に四回も行われた熱気浴のために、大量の腸液とガスが腹腔内に漏出したものである。右写真の右側にみられる黒いぶつぶつしたものを含む物質は、左側臥位の写真で大きく左側に移動しており、粘性の高い腹腔内の液体で、腸管壁に付着した膿性苔と腸液であり、後腹膜腔内のガスではない。後腹膜腔内のガスとしては、左側腹下部の左腸骨稜に数条の線として認められるが、第一手術後、縫合部より消化管内の大量のガスが腹腔内に漏出するとき、一部のガスが後腹膜手術創より後腹膜腔に侵入したものと思われる。

4  膵臓が後腹膜腔内の臓器であるため、急性膵炎が発症すると、水面に石を投じた如く、その炎症は外へと順次広がり、膵の腫大に始まり、膵周囲への逡巡浸潤が左右の腎臓、両側の腸腰筋へと炎症が及んで行き、炎症の侵出液漏出(血漿成分の血管外漏出)により、後腹膜腔の体積が著しく増し、レントゲン写真像では、左右腎臓の消失、両側の腸腰筋の陰の消失として順次所見がみられる。しかし、六月二九日のレントゲン写真では、左右の腎臓、両側の腸腰筋が明瞭に認められ、七月一日のレントゲン写真でも、左腎臓、左腸腰筋の陰が認められ、後腹膜腔内の炎症所見は認められない。

5  血清アミラーゼ値は、膵炎の診断時、エラスターゼ[1]、トリプシン、リパーゼ、膵PLA2、PSTI等の多数の膵臓血液検査の内の一つで、いずれの検査もそれ一つの検査値で確定診断されるものではなく、血液検査、画像診断とともに総合的に診断される、非特異的な膵臓の血液検査の一つに過ぎない。アミラーゼ値は、健康な老人や癒着性イレウス時に高値を示したり、重症膵炎時に異常に高値を示すこともあれば、全く上昇しないこともあり、膵炎を診断する場合は、数種類の膵臓の血液検査を行うのが常識である。

海煥のアミラーゼ高値の原因は、S状結腸縫合不全により腸液が腹腔内に漏出し、患者は痛みのためにじっとしておれず、悶々として右側臥位、左側臥位、立ったり、仰向けに寝たりすることにより、腸液は容易に腹腔内全域に達する。この穿孔部より漏出した腸液が腹膜を透して後腹膜腔内の膵を刺激し、一過性のアミラーゼ高値を示したものである。このような腹膜炎に伴う一過性のアミラーゼ高値は、上腹部の腸管穿孔では必発の症候で、この症候のみを指して膵炎が合併したとはいわない。

6  腹腔内で腸管の穿孔が起きると、腸内細菌は腹腔内に漏出し、体温で保たれ、栄養の豊富な環境で増殖する。腹腔内が巨大な孵卵器、感染巣の場となり、菌血症、敗血症、血管内凝固症候群、更に多臓器不全に至る重篤な病態を呈する。

7  海煥の死因は、S状結腸縫合不全(消化管穿孔)とそれに関連する一連の病態(菌血症、敗血症、汎血管内凝固症候群、多臓器不全)によるものであり、死亡に達する程に重症の急性膵炎は、海煥のカルテ、看護記録、レントゲン写真、血液検査から認められない。

五  縫合不全の推認

右一ないし四に検討したところによると、六月二九日午前三時一五分頃、海煥の第二手術の手術記録に被控訴人関谷が図示した部位のS状結腸吻合部に縫合不全が発症し、山本鑑定意見や(漢字略)医師の所見のとおり、縫合不全による腹膜炎が汎発性に拡大し、菌血症、敗血症、汎血管内凝固症候群という全身感染症に移行し多臓器不全に陥ったことが、海煥の死因と推認できる。

六  縫合不全の推認を覆すに足りる所見・症状

1  被控訴人らは、検乙八の1・2のレントゲン写真(六月二九日撮影)に、膵炎の重要な特徴であるコロンカットオフサインが読影され、これは、消化管穿孔を否定し、膵炎の発症を示す所見と主張する。

《証拠略》によると、検乙八の1・2、同九の1・2のレントゲン写真には腸管の縫合部分自体は写っておらず、これらの写真から直接に縫合不全が存したか否か判断することはできないことが認められるから、これらの写真はその他の異常所見の有無から間接的に縫合不全の存否を判断すべき性格の資料である。

ところが、被控訴人らの右主張に沿う乙一五三、一五四、一六三の1、証人早川克己(原審及び当審)、同坂本力の各供述部分は、右レントゲン写真に横行結腸が拡張し麻痺性イレウスに特徴的な所見が出ているが、膵炎に典型的なコロンカットオフサインとはいえないとする証人山本及び同(漢字略)の各証言に対比すると、容易に採用し難く、甲一五の名古屋市立大学医学部放射線医学講座教授大場覚の所見も、結腸イレウスの症状でコロンカットオフサインと読めなくもなく、急性膵炎の可能性を否定できないが、このようなレントゲン徴候は、腹膜炎、横行結腸より遠位部の結腸閉塞、上腸間膜動脈血栓症などでもみられるというもので、証人山本、同(漢字略)の右各証言と対比すると、検乙八の1・2のレントゲン写真に、膵炎の特徴としてのコロンカットオフサインが読影できるかどうかは、未だ明らかではないというほかない。

2  被控訴人らは、検乙九の1・2のレントゲン写真(七月一日撮影)の遊離ガス、ぶつぶつ状の陰影は、後腹膜腔内のものであって、腹腔内のものではない旨主張する。

しかし、被控訴人らの右主張に沿う乙一五三、一五四、一六三の1、証人早川(原審及び当審)、同坂本の各供述部分は、甲一五、一六、証人大場、同(漢字略)、同山本の各証言に対比すると容易に採用し難い。

もっとも、《証拠略》によると、右レントゲン写真上では、後腹膜腔内のガスとして、左側腹下部の左腸骨稜に数条の線として認められるが、S状結腸は腹腔内の臓器で、後腹膜腔内にないので、S状結腸に穿孔が起こっても、後腹膜に損傷がない以上、後腹膜腔に遊離ガスを生じさせることはなく、後腹膜腔内に遊離ガスが存在することは、S状結腸の縫合不全以外に、後腹膜腔内の発生源が存在するといえるところ、第一手術でS状結腸の患部を切除し縫合する際、腸間膜を切開し後腹膜の壁も縫合しており、この場合、第一手術後、縫合部より消化管内の大量のガスが腹腔内に漏出するとき、一部のガスが後腹膜手術創より後腹膜腔に侵入した可能性も否定できないことが認められ、後腹膜内の右ガスの存在も、S状結腸吻合部の縫合不全と矛盾するとは認められない。

3  被控訴人ら、六月三〇日の血清アミラーゼ値は正常値の六倍以上であり、この高値は、膵炎以外には通常考えられない旨主張する。

六月三〇日午前に血清アミラーゼ値を検査したところ、正常値の六倍以上の高値を示したことは、第一の海煥の症状経過等で、急性膵炎の診断上、血清アミラーゼ値の上昇が重要であることは、二の急性膵炎の症状で、それぞれ認定したとおりである。

しかし、《証拠略》によると、血清アミラーゼ値の上昇は、穿孔性腹膜炎や腸閉塞など膵以外の疾患でも起こりうるので、急性膵炎の診断をより確実にするためには、膵に特異なリパーゼ、トリプシン、エラスターゼ[1]、PSTIなどの測定を要するとされていること、手術にて膵の炎症的病変が確認されたもの、または肉眼的に急性膵炎と診断されたもので、血清アミラーゼが正常値を示していた例が四八・七パーセント、三一・七パーセントあったとの研究も報告されていることが認められ、(漢字略)所見では、海煥のアミラーゼ高値の原因は、S状結腸縫合不全により腸液が腹腔内に漏出し、患者は痛みのためにじっとしておれず、悶々として右側臥位、左側臥位、立ったり、仰向けに寝たりすることにより、腸液は容易に腹腔内全域に達し、この穿孔部より漏出した腸液が腹膜を透して後腹膜腔内の膵を刺激し、一過性のアミラーゼ高値を示したものであり、このような腹膜炎に伴う一過性のアミラーゼ高値は、上腹部の腸管穿孔では必発の症候で、この症候のみを指して膵炎が合併したとはいわないとしており、山本鑑定、証人山本の証言によっても、血清アミラーゼ値の右高値も、縫合不全の認定と矛盾するとは認められない。

4  被控訴人らは、七月一日ないし四日のカルシウム値は正常値より低下しており、これも膵炎の徴候である旨主張する。

《証拠略》によると、第一手術直後の六月二五日の血清カルシウム値が四・二(正常値四・二ないし五・五)であったのが、第一の海煥の症状経過等で認定したとおり、第二手術直前の七月一日午前五時頃には四・〇、同日午前九時に三・八、同月二日には三・五、同月三日には三・八と低下しており、急性膵炎の発症後、しばしば低カルシウム血症がみられることは、二の急性膵炎の症状で認定したとおりである。

しかし、《証拠略》によると、低カルシウム血症は、腹膜炎、腸瘻、嘔吐、吸引、下痢による腸液喪失(イレウス)、腎不全などの場合にも示すことがあり、カルシウム値は、膵炎診断のための基準項目でなく、膵炎の確定診断がついた後の重症度を判断する基準項目に過ぎないことが認められるので、右カルシウム値の低下も、縫合不全の認定と矛盾するとは認められない。

5  被控訴人らは、膵炎でも、痛みが下腹部から始まることもあり、第一手術は左下腹部であったのに、海煥の痛みの初発部位は右下腹部であり、左下腹部に異常所見がなかったことは、縫合不全を否定するものである旨主張する。

六月二九日午前三時一五分の海煥の腹痛の初発部位が右下腹部であったことは、第一の海煥の症状経過等で、膵炎の痛みの初発部位が下腹部であることもあることは、二の急性膵炎の症状で、それぞれ認定したとおりである。

しかし、《証拠略》によると、S状結腸を切除した場合の縫合部は、ほぼ正中に来るし、消化管穿孔による痛みは、穿孔で腹腔内に漏出した腸液が腸膜を刺激して生ずるもので、患者の体位にもよるため、痛みの初発部位が下腹部の右か左かは、余り意味がないと認められ、海煥の痛みの初発部位が右側下腹部であっても、縫合不全の認定と矛盾するとは認められない。

6  被控訴人らは、海煥に細菌性ショックはなく、腹膜は、細菌に対し強い抵抗力があり、細菌性腹膜炎であれば、本件のような早期のショックが発現しない旨主張する。

しかし、《証拠略》によると、被控訴人関谷は、海煥のカルテ(乙三)の七月一日午後三時欄に「エンドトキシンショック!!」と記載していることが認められ、甲五の21によると、エンドトキシンショックとは、大腸菌、変型菌、緑膿菌などの菌体内毒素を産出するグラム陰性桿菌の感染によって起こるショック状態をいうから、被控訴人関谷も、細菌性ショックの発症を認めていたことになり、海煥に細菌性ショックがなかったとの被控訴人らの右主張は理由がない。

7  被控訴人らは、縫合不全による汎発性腹膜炎であれば、細菌が繁殖している筈であるのに、ドレナージ液の細菌検査の顕微鏡検査で細菌は陰性である旨主張する。

第一の海煥の症状経過等で認定したとおり、七月二日の腸腔内排液の培養検査では、カンジタと腸球菌が、同月四日の横隔膜ダグラスドレーンの培養検査でプロテウス菌と腸球菌が、感受性検査でレンサ球菌が、それぞれ検出されていることが認められる。

8  被控訴人らは、白血球の早期上昇と正常化、動脈血細菌培養検査陰性は、菌血症、敗血症がなかったことを示している旨主張する。

第一の海煥の症状経過等で認定したとおり、海煥の白血球は六月二九日に一万六五〇〇の異常値以降低下しているが、汎発性腹膜炎では、一般に白血球が増加するが、進行した重症例では逆に減少することが多いから、右の白血球値の低下は、縫合不全による汎発性腹膜炎と矛盾するとは認められない。

9  被控訴人らは、熱気浴が施されたのは、白血球の正常、血清アミラーゼ高値と、ともに膵炎の診断後であると主張する。

しかし、第一の海煥の症状経過等で認定したとおり、熱気浴は六月二九日午後三時五〇分から施行されており、《証拠略》によると、被控訴人関谷が膵炎診断をしたのは、六月三〇日の血清アミラーゼ値が二五〇〇と異常に高値であることを知ってからであることが認められるので、被控訴人らの右主張は、認められない。

10  被控訴人らは、血管内凝固症候群は、七月四日に発症したものであることは、臨床経過からして明らかであると主張するが、右事実は五の縫合不全による腹膜炎が汎発性に拡大し、菌血症、敗血症、汎血管内凝固症候群という全身感染症に移行し多臓器不全に陥ったとの事実と矛盾するとは考えられない。

11  被控訴人らは、海煥には、縫合不全による腹膜炎であれば、通常認められる筋性防御反応が認められなかったから、縫合不全による腹膜炎はなかった旨主張する。

第一の海煥の症状経過等認定のとおり、被控訴人相馬、同関谷らが海煥を診察した際、筋性防御反応を認めなかったが、二の縫合不全等の医学的所見認定のとおり、消化管穿孔でも、老人の場合、腹膜刺激に基づく触診所見が若年者に比べて弱く、時には欠如することもあるばかりか、《証拠略》によると、看護記録の六月二九日午前七時欄の「右下腹部~側腹痛(++)、圧するとひびく様な痛みが増強する」との記載は、筋性防御反応の一つであるブルンベルグサインを示すものとも認められるので、被控訴人らの右主張も理由がない。

12  以上、1ないし11で検討したところによると、海煥に急性膵炎の発症を疑わしめる症状・所見が一部あったことは、否定できないが(山本鑑定によれば、開腹手術を行った症例における術後膵炎の発症頻度は〇・〇三パーセント程度とする〔原判決五〇枚目裏三行目以下〕)、いずれも、右五の海煥の死因についての推認と矛盾せず、他に右推認を覆すに足りる証拠はない。

従って、六月二九日午前三時一五分頃、海煥の第一手術のS状結腸吻合部に縫合不全が発症し、縫合不全による腹膜炎が汎発性に拡大し、菌血症、敗血症、汎血管内凝固症候群という全身感染症に移行し多臓器不全に陥ったことが、海煥の死因であると認められる。

七  控訴人らの病理解剖拒否と立証妨害

被控訴人らは、被控訴人医師らが海煥死亡後、病理解剖を求めたのに、控訴人らがこれを拒否したのは、被控訴人らの死因立証を妨害したとみることができ、信義則上、控訴人らが海煥の死因を争うことは許されない旨主張する。

第一の海煥の症状経過等で認定したとおり(原判決四一枚目裏七、八行目)、控訴人らが、被控訴人関谷の病理解剖の申入れを拒否したが、第二手術後、被控訴人医師らは、控訴人らに海煥が縫合不全を起こしていたことを告げて説明しており(同三九枚目表四行目から一〇行目)、《証拠略》によると、控訴人らは、その説明通り縫合不全を信じていたと認められ、控訴人らが海煥の死因が縫合不全にあると主張することが信義則上許されないとは認められない。

第三  被控訴人らの過失

一  術前栄養管理及び被控訴人医師らが予防的な術後ドレーンを挿入しなかったことについて

右過失についての判断は、原判決六八枚目裏末行目から七一枚目表三行目に説示のとおりであるから、これを引用する。

二  縫合不全発見と再手術の遅れ

1  第二の二縫合不全等の症状に関する医学的知見で検討したように、一般に、消化管吻合術を施行した際には、術後二、三日間は発熱があり、その後、三七度前後に下降する。しかし、術直後の高熱が下降した後、再度四、五日後に発熱し、以後六ないし八日目三八度ないし三九度の高熱となれば、まず、縫合不全を考慮に入れるべきである。その上、脈拍数が一分間に九〇ないし一〇〇であれば、縫合不全の可能性が強い。初発症状としては、発熱が約八〇パーセント、頻脈が約七〇パーセントにみられ、この二つが重要な症状であり、大腸穿孔では糞便性腹膜炎を呈し、エンドトキシンショックに陥りやすいため他部位の穿孔に比し予後が、特に高年齢者には、不良である。消化管穿孔後一二時間以内が再手術のいわゆるゴールデンタイムである。

2  第二の海煥の死因で検討したところによると、六月二九日午前三時一五分頃、海煥の第一手術のS状結腸吻合部に縫合不全が発症したことが認められる。

そして、第一の海煥の症状経過等で検討したように、海煥は、第一手術後五日目の六月二九日午前三時一五分、発作的激痛を訴え、発熱、頻脈、悪寒があり、解熱鎮痛剤を投与して解熱を図っても三九度以上の高熱が持続し、当初創痛と右下腹部から始まり右下腹部から側腹部にかけて圧すると響くような痛みが増強し、白血球値が一万六五〇〇(正常値は五〇〇〇~八五〇〇)と以上に高くなり、午後一時頃には血圧が著しく低下し(六〇/触)、顔色不良となり全身状態が悪化し、ショック状態に陥っていた(原判決三一枚目裏六行目以下)。

3  山本鑑定意見

第二の三山本鑑定意見で認定したように、山本鑑定人は、六月二九日午前三時一五分以降の発熱及び下腹部が発生した時点で、縫合不全を疑うべきであるとしている(原判決五〇枚目裏八行目以下)。

また、《証拠略》によると、山本鑑定意見は、次のとおりであることが認められる。

(一) 右縫合不全を疑われる時点で、海煥にはインフォメーション・ドレナージが施されていないので、可及的速やかに再手術の施行について考慮されなければならない。再手術としては、一般的に再吻合をせず、人工肛門の造設あるいは吻合部そのものを腹壁外に引き出し、十分な腹腔内洗浄とドレナージを行う。全身感染症に移行し、敗血症、呼吸不全、DIC(汎発性血管内凝固症候群)、更に多臓器不全へと進展してしまうと救命は極めて困難となる。

(二) 術後第五病日における白血球増多は術後の感染症の存在を疑わせる。その原因には、手術操作部位に関連したものとして、創感染、腹腔内膿傷、腹膜炎など、関連しないものとして、肝・胆道系感染症、呼吸器感染などが、また続発性全身感染症として敗血症などが考えられる。消化器外科領域においては、術後の腹腔内膿傷、腹膜炎が疑われる場合、まず縫合不全によるものを最初に考えなければならない。

(三) 海煥の病状の進展は極めて速く、腹部症状発症とほぼ同時に全身症状の発現をみており、仮に、本件第二手術より早い時期に再開腹手術をしていても、救命しえたか疑問であるが、可能性としては六月二九日のうちのより早い時期に再手術がされていれば、より良好な治療効果がみられたかも知れない。特に、同日午後一時頃の海煥の血圧が著しく低下し(六〇/触)、顔色不良となり全身状態が悪化し、ショック状態に陥った直後に、再手術をしておれば、救命し得た可能性がある。

(四) 熱気浴は、術後腸機能低下に対して各種腸管運動促進薬と共によく用いられる処置であるが、腹腔内の広範囲な急性炎症が疑われる場合には、一般に禁忌とされている。

4  (漢字略)医師の所見

第二の四(漢字略)医師の所見で認定したように、(漢字略)医師は海煥の縫合不全(消化管穿孔)の発症は、六月二九日午前三時一五分頃(第一手術後六日目)であるとしている。

また、《証拠略》によると、医師(漢字略)の所見は、次のとおりであることが認められる。

(一) 大腸は、胃や小腸に比べ、腸管壁が著しく薄いため、腸管縫合が難しく、縫合不全を起こしやすい。また、大腸菌を始めとして多数の細菌が存在するため、縫合不全を起こすと、上部消化管の穿孔に比べて重篤な細菌症を起こしやすい。第一手術で、ドレーンが挿入されておれば、穿孔による情報が的確に得られるが、海煥の場合、ドレーンが挿入されていなかったのであるから、術後二週間は縫合不全(穿孔)の兆候がないか、最大限の注意をはらい、穿孔が疑われれば、緊急再手術をすべきである。

(二) 大腸穿孔の一般的な予後は、穿孔から手術までの病悩期間が長い程悪く、一二時間以上になるとショックに陥る危険性が高まるといわれており、大腸穿孔後一二時間がゴールデンタイムである。穿孔より二四時間以内に、穿孔部から漏出した腸液を生食で洗浄し、穿孔部を縫合し、穿孔した腸管の上行部に人工肛門を造設する再手術を行えば救命の可能性があるが、四八時間以後に再手術を行っても救命の可能性は極めて少ない。

5  被控訴人医師らの義務

右1ないし4を総合すると、六月二九日午前三時一五分頃、海煥は、第一手術のS状結腸吻合部に縫合不全が発症し、被控訴人医師らは、遅くとも、海煥の血圧が著しく低下し(六〇/触)、顔色不良となり全身状態が悪化し、ショック状態に陥った同日午後一時頃までには、右縫合不全の発症を診断することができ、発症後一二時間ないし二四時間以内に、穿孔部から漏出した腸液を洗浄し、穿孔部を縫合し、穿孔した腸管の上行部に人工肛門を造設する再手術を施行すべきであったのであり、そのような再手術をしておれば、海煥の救命はできたと認められる。

6  被控訴人医師らの過失

ところが、第一の海煥の症状経過等で認定したとおり(原判決三一枚目裏七行目以下三八枚目裏四行目)、被控訴人医師らは、海煥の縫合不全に気付かず、消化管の縫合不全に一般に禁忌である熱気浴を、六月二九日午後三時五〇分以降、同日と翌三〇日に各二回宛計四回行い、七月一日午前四時頃に当直の大和医師の連絡で、被控訴人病院に駆けつけた被控訴人医師らが海煥を診察し、同日午前六時五〇分に本件第二手術を開始するまで、二九日に被控訴人相馬が二回、三〇日に被控訴人相馬と被控訴人関谷が各一回宛、海煥を診察し、解熱鎮痛剤・抗生物質・蛋白分解酵素阻害剤の投与や、各種検査を指示したほか、漫然と看護婦の経過観察に任せ、再手術を七月一日午前六時五〇分まで行わなかったのであるから、被控訴人医師らには、右5の海煥の縫合不全の発見及び再手術の施行が遅れた過失があるというべきである。

7  海煥の死亡と被控訴人医師らの過失の因果関係

右5のとおり、縫合不全発症後一二時間ないし二四時間以内に、穿孔部から漏出した腸液を洗浄し、穿孔部を縫合し、穿孔した腸管の上行部に人工肛門を造設する再手術を施行しておれば、海煥の救命はできたと認められるから、海煥の死亡と右6の被控訴人医師らの過失との間には相当因果関係があると認められる。

第四  海煥の損害

一  逸失利益

《証拠略》によると、海煥は、大正一〇年一二月二四日生まれで死亡時六三才の男子で、従業員数二〇人位・年商一〇億円位の規模で、七福織物との屋号で西陣織物の製造卸売業を営み、従業員数四四ないし四五人・店舗数三軒のパチンコ店を経営し、アパートを二軒所有し他に賃貸しており、昭和五七年分として四三五六万八六三一円、昭和五八年分として四四七九万〇五二四円、昭和五九年分として三七六八万四一八三円を、所得額とする各所得税の確定申告をしていたことが認められる。しかし、その所得のうち、投下資本の利子、所有不動産の賃料、企業の物的・人的組織による収益等と区別して、海煥個人の労務による収益を的確に認定するに足りる証拠はない。

よって、海煥の死亡による逸失利益算定の基礎となる年収としては、賃金センサス昭和六〇年第一巻第一表全国性別・年齢階級別平均給与表(一般労働者)の六〇~六四才の年間給与額の三二九万一〇〇〇円によるのが相当である。

そして、昭和五九年簡易生命表によると、六三才の男子の平均余命は、一六・九二年であり、海煥は本件縫合不全に対する再手術遅延による死亡がなければ、その約二分の一の八年間は、年間右三二九万一〇〇〇円の収入を挙げられた筈であり、その逸失利益の死亡時の現価は、生活費控除割合を三割とし、新ホフマン式で計算すると、次のとおり一五一七万八一五七円となる。

3、291、000×(1-0・3)×6・5886=(約)15、178、157(円未満切捨て)

二  慰藉料

以上第一ないし第三で検討した海煥の症状経過等、死因、被控訴人らの過失など総合すると、海煥の慰藉料額は一八〇〇万円が相当と認める。

三  葬儀費用

本件死亡と相当因果関係のある葬儀費用の額は一二〇万円と認めるのが相当であり、これは相続分に応じ控訴人らの負担となると解される。

四  海煥の損害額

よって、海煥の本件死亡による損害は右一ないし三の合計三四三七万八一五七円となる。

第五  相続関係など

一  《証拠略》によると、海煥は韓国人であり、控訴人崔は、海煥の妻、控訴人敬士、同壮守、同敬祐、同政右は、海煥と控訴人崔との間の男子で、控訴人敬士がその第一子、同良守はその間の女子であり、韓国民法(一九九〇年一月一三日法律第四一九九号による改正前のもの)により、海煥の法定相続分は、控訴人崔と同敬士が各二五分の六、同壮守、同敬祐、同政右が各二五分の四、同良守が二五分の一であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  よって、第四の海煥の三四三七万八一五七円の被控訴人らに対する損害賠償請求権を、控訴人崔と同敬士が各二五分の六の八二五万〇七五七円宛(円未満切捨て、以下同じ)、同壮守、同敬祐、同政右が各二五分の四の五五〇万〇五〇五円宛、同良守が二五分の一の一三七万五一二六円、それぞれ相続したことによる。

三  弁護士費用

以上検討したところによると、海煥の本件死亡と相当因果関係のある弁護士費用は、控訴人崔と同敬士について各八二万円、同壮守、同敬祐、同政右について各五五万円、同良守について一三万円とみるのが相当である。

第六  結論

よって、控訴人らの本訴請求は、被控訴人らに対し、控訴人崔と同敬士が各九〇七万〇七五七円宛、同壮守、同敬祐、同政右が各六〇五万〇五〇五円宛、同良守が一五〇万五一二六円と、これらに対する海煥死亡日の昭和六〇年七月八日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。

よって、原判決を主文のとおり変更する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 河田 貢 裁判官 佐藤 明)

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